近年西安で墓誌が発見された遣唐留学生「井の真成」をNHKの新シルクロードで取り上げた。 


ところで番組の中でアナウンサーが「井の真成」のことを、しきりに中国風の訓読みの「せいしんせい」と繰り返していることがやたら耳についた。本来は和風読みの「いのまなり」で有るはずである。そもそも井という姓もこれは中国風に一字姓にしたのであり本来は「井上」或は「葛井」(ふじい)の二文字の姓だったといわれている。


もう一つ耳に付いた言葉が、唐のことをしきりに大唐帝国と読んでいることである。当時は大唐国といっても大唐帝国とはいわなかった。帝国という概念自体が近代にできたものである。現代の中国と関連のある唐の偉大さをことさら強調しようとしているのではないかと深読みしてしまう。


以前のシルクロードは「敦煌」や「桜蘭」を一躍有名にした。砂漠の中の古代都市や砂に飲み込まれた楼閣、滅んだ民族の物語など、日本人に中国古代の歴史ロマンをかき立てた。しかし今回の新シルクロードの内容は井の真成が生きた大唐国時代の歴史探訪という要素はごくわずかで、番組内容のほとんどはNECとの合弁企業やら、西安の企業で生産された光ファイバーケーブルが中国全土に張り巡らされているとか、いかに中国が発展しているかということをわざわざ日本人視聴者から集めた金で宣伝する「発展する中国の大都市西安」のPRビデオの趣である。


以前のシルクロードと同様に、古代中国の歴史物語を期待した視聴者にはがっかりだ。